未来の価値 第56話


ニッコリと、向日葵のような明るい笑顔で言われると、つい「そうだな、俺たち二人揃えば」と返したくなってしまう。スザクと二人ならなんでも出来る、なんでもやれる。そんな気持ちが沸き起こが、その衝動をどうにか抑えた。自分の手を包みこんでいるスザクの手はとても温かく、縋りつきたくなるような頼もしさを感じた。
だが、この手を取るわけにはいかない。

「スザク、頼む。ナナリーを、護ってくれ」

絞り出すようなルルーシュの言葉に、スザクは眉尻を下げ視線を下げた。その先には、先ほどよりも暖かくなったルルーシュの手と自分の手。二人が手を取り合い協力すれば何でもできる、怖い物など何も無い。その思いは、ルルーシュにも間違いなくあるのだとわかった。
さきほどの自分の言葉にルルーシュの瞳は解りやすいほどの動揺と葛藤を示し、それでもこの手をとる事を拒んだ。
それはすべて、ナナリーを護るためだ。
ルルーシュは頭がいい。
スザクを手にする道と、手にしない道、どちらがよりナナリーを護るために適した道なのか、スザクが想像している以上に考えているはずだ。スザクの身の安全と、地位のためだけに拒んでいるわけではないのだ。スザクにとっての最善は、この手を離さないこと。
スザクは両目を瞑り、ルルーシュの手をぎゅっと握った。
痛いほどのそれに対しルルーシュは眉ひとつ動かすことなく、項垂れているスザクを見つめていた。ルルーシュは折れない。絶対に。なぜなら、ナナリーを護るための手だから。
刻一刻と朝が近づいてきている中、二人は無言のまま微動だにしなかった。ルルーシュはスザクの言葉を待っている。スザクは、ルルーシュを諦めるしかない事を理解しているが、決定的な言葉を紡げず、時計の針はだけが進んでいった。
この状況にしびれを切らしたのは、魔女だった。

「枢木スザク、ユーフェミアの騎士だからこそできる方法を教えてやろうか?」

もちろん、ルルーシュを守る方法だ。
C.C.の言葉に、スザクはハッとなり顔をあげた。
ルルーシュは何を言うつもりだと眉を寄せ、C.C.をみる。

「確かに、ユーフェミアの騎士と成ってしまえば、ルルーシュを今までのように護ることは不可能だ。騎士は二君を持たないから、どんな危険な状況下になっても、ルルーシュではなくユーフェミアを第一に守らなければならない」

言われなくても解っている。だからこそ、ユーフェミアの騎士になりたくはないのだ。ここに来ることさえ、もう出来なくなるから。

「だが、よく考えてみろ。クロヴィスはルルーシュを護るために自分の信頼している直属を護衛につけているな?騎士ではないが、バトレーもルルーシュに心を砕き、クロヴィスの傍を離れている時は、ルルーシュの傍で雑務を行う事もある。あの二人が、ルルーシュを害悪なものたちを阻む盾となっている事、この政庁にいる者なら皆気づいているだろう。」

クロヴィスはバトレーを騎士にと望んだが、バトレーは武官ではないし、年齢の事も考えそれを拒んでいた。だが、クロヴィスの中ではバトレーが自分のただ一人の騎士なのだ。そのバトレーはルルーシュを護っていないわけではない。むしろ第二の主のように、よくつくしていた。それは、スザクもよく知っていることだった。
だからこそ、兄であるクロヴィスより上位となってしまったルルーシュだが、最初のころと変わらず今もクロヴィスの庇護下にあることに、誰も何も文句など言わなかった。血筋や妬みで悪く言う物もいるが、その程度だ。

「だから、お前は主であるユーフェミアを、クロヴィスのようになるよう誘導すればいい。わかるか?ルルーシュを護る強固な後ろ盾になるように教育するんだ。コーネリアが口を出してきてもそれを突きかえせるだけの意思を持たせ、今のようなお飾りではなく、副総督の名に恥じない為政者となるようにな」

碌に仕事をしていない今の立場から、ルルーシュの仕事をいくらか負担できる程度にまで成長させるだけでも、ルルーシュの負担が減ることになる。
ユーフェミアはルルーシュに好意的だから、ルルーシュも護りたいといえば、間違いなく協力してくれるだろう。 「総督であり第三皇子クロヴィス、副総督であり第三皇女ユーフェミア。この二人に守られているルルーシュ。クロヴィスとスザク、お前だけで守るルルーシュ。ああ、もちろんユーフェミア側の人間は敵になるから、リ家による暗殺の心配もしなければな?コーネリアによる妨害も、今以上になるだろう。さあ、どちらが安全か、お前の気持ちは抜きにして考えてみろ」

私に言える事はそれだけだと、C.C.は欠伸をした後再び横になった。
余計な事をと、ルルーシュは思わずC.C.を睨みつけ、鋭い舌打ちをした。その姿で、ああ、C.C.は適当な事を言っていたわけではなく、その手も本当に存在するのだとスザクに気付かせることになった。
ルルーシュは深く息を吐いた後、スザクに向き直った。

「・・・スザク、C.C.の話は忘れろ。お前は俺のことなど気にせず、ユーフェミアの騎士として生きればいい。ただ、ナナリーの事だけは頼みたい」

我がままだとは解っているが、ナナリーだけは。
ルルーシュの瞳は、これ以外の結論は無いのだと訴えていた。
ユーフェミアは安定した地位を持つ皇族だ。つまり、スザクの地位も安定し、ナナリーを護る後ろ盾としての力をスザクも手に入れることになる。
ルルーシュが求めているのは、そう言う事なのだろう。
最愛の妹ナナリーを失い悲しみにくれたルルーシュの心を慰めるためにナナリーそっくりに整形し、傍に仕えていた盲目の少女。自ら歩く事も出来ない彼女には、今アッシュフォードがついているがそれは絶対ではない。アッシュフォードは一枚岩ではないから、現当主のルーベン、そして次期党首となるだろうミレイに一族が反発すれば、ナナリーを保護する事は出来なくなるかもしれない。
ルルーシュは、ナナリーを護るために手を出すことさえ出来ない。
だから、イレブンでありながらユーフェミアの騎士となったスザクが、ユーフェミアの同意を得て彼女を庇護下に置く。リ家の庇護下に入ることになるのだから、今以上に安全な状態となるだろう。
敵を増やすか、味方を増やすか。
盾を増やすか、剣を増やすか。
どうあがいても、もう無理なのだろう。
拒絶する事も、逃げる事も出来ず、選ぶ事すらできない。
スザクが進む道はやはり一つしかなかったのだ。

「・・・わかった。彼女の騎士になるよ」

スザクの言葉に、ルルーシュは驚いた後花がほころぶような美しい笑顔となった。それが、スザクには悲しかった。結局自分はナナリーには勝てないのだ。ナナリーのためなら、ルルーシュはスザクをも利用するのだ。スザクの気持ちなどどうでもいいのだ。
もし、スザクの位置にナナリーがいたなら、絶対にユフィを敵に回しても戦っただろうに。だが、スザクのためには戦わないのだ。悲しげに濁る翡翠の瞳に、ルルーシュはすぐに笑顔を消し、申し訳なさそうに俯いた。スザクの本意ではないのに喜んだ自分を恥じたのだろう。そえだけスザクの気持ちを理解していながら、それでも押し通すのだから、やはりルルーシュは酷いやつだ。
だから。

「だけど、僕は君を護るから。絶対に、君を裏切らない。だから、僕を切り捨てないで。僕を頼ってね、ルルーシュ」
「・・・それは・・・」
「約束だよ。僕はユフィの騎士になる。でも、僕は、俺は、ルルーシュの騎士でもある。この気持ちは、変わらない」

騎士は二君を持たないなんて知らない。
君も、僕が。
握っていた手を開くとその中にあった白い手は赤くなってしまっていた。
加減を忘れ強く握ってしまったから。
でも、これは君の責任だ。
スザクはルルーシュの右手を恭しく手にすると、その甲に誓いの口づけをした。

***

スザクをどっちの騎士にするかは一応悩んだんですけどね(言い訳2回目)
やっぱりユフィに。
二人どころかC.C.含めて3人揃ったら負けなしになってしまうし。

以下その後のおまけ


手の甲に口づけられたルルーシュ

「ほわあああ!?ススススス、スザアアアアク!お、お前なにしてるんだ!」
「誓いの口づけ?」
「なななな!?おまえ、ふざけるな!」
「ルルーシュ、顔真っ赤だよ?」

顔を赤くしてうろたえるルルーシュを、可愛いなあと思いながらスザクは笑った。

「当たり前だ!こんなっ!」

手の甲に口づけだと!?

「君は皇子様なんだから、慣れてるだろ?」

・・・他の男がこの手に口づけを?はははは・・・絶対に邪魔したい。

「俺は、男だ!それは女にやることだろ!」

慣れてるはず無いだろ!初めてだ馬鹿が!!

「え?あー君なら普通にありだと思ったけど」

という事は、他の男は口を触れることもできないのか。よし。

「ありとかなしとかの話じゃな・・・」

ざわり、と背筋に悪寒が走り思わず口を閉ざした。

「お前たち、私の睡眠を何度妨害したら気がすむんだ。いい加減眠れ!!」

数百年を生きた魔女が眠りから覚め、二人に魔法(ショックイメージ※気絶用)をかけた!効果てきめん!二人は一瞬で気を失った!魔女は一応二人に毛布をかけて眠った。
ゲームオーバー!
男たちの言い争いは強制終了した!

ルルーシュを真ん中にして、C.C.とスザクと三人川の字になって就寝→寝坊

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